ヨコハマ買い出し紀行において、食糧事情について語られることはあまりないです。しかし食べ物の話は時々出てきます。初期にはA7のうち、アルファだけが動物性タンパク質を消化できないといった話とか、はばのりの話、うなぎの話などなど。でも今回の旅の間、アルファは2回、巨大な果実をもらっています。
植物の果実の存在意義は数通りあり、ひとつはイチョウの実の銀杏や栗の実のように、熟するまで動物に食べられないように保護するもの、もうひとつは動物にたべらることによって運搬されるのをねらい、味のいい果実をつけるものです。ほかにもありますけどね。で、植物の果実が子孫繁栄のためだとすると、ヨコハマの世界で桃や栗が3年、柿が8年、梨に至っては18年というのはちょっとその理由が疑問です。本来この言葉、苗の発芽後桃と栗は3年目から、柿が8年目から、梨が18年目から果実の収穫が可能ということを示すものです。発芽後36年たたないと収穫できない梨なんてちょっと嫌ですよね。
それじゃあ巨大な果実がおいしいのかどうかということですが、はっきり言うとクソ不味いです。いわゆる大味って奴になります。かぼちゃで試すと顕著なんですが、ひとつの蔓に対してもっとも成長のいい果実だけを残し、残りは全部ちょん切ってしまいます。するとそのつる全体で光合成された糖類は全部そのひとつの果実へと供給され、本来はボーリング球大の大きさのはずが、ぐんぐんと大きくなり、アメリカなどでよくあるお化けかぼちゃになります。この化け物かぼちゃ、なんでここまで大きくなれるかというと、過剰な栄養供給のおかげで組織成長が止まらなくなり、結果バカみたいにでかくなるんです。でかくなったら今度は細胞1個当たりへの栄養供給量が減ってしまうわけで、でかくなりすぎると味の密度が落ちて不味くなるというわけです。
んじゃ樹木性の果実の場合はどうかってーと、今度は成長時に一年生の植物に比べて多くのエチレンを発生するため、これまた味が落ちてしまいます。エチレンは果実が熟するほどに発生し、果実の成熟をさらに促進します。親から切り離しても細胞自身はまだ生きているわけで、エチレンの発生がとまらず、熟した果実は速攻で食べてしまわないとダメになるのもこのあたりにあります。
夕凪の世界の巨大な果実はどうも多年生植物にしかないようですね。んまあ巨大化が年月の結果だということからすればそういうわけなんですが、もし越冬時にも果実がついていた場合、植物は栄養不足を果実から補給しかねないでしょう。果実をつける理由のひとつに、過剰の栄養を蓄えておく、というのもあるからです。これは飢餓状態に陥ったとき、そこに貯蔵した栄養でなんとか食いつなげる、という意味もあるからです。
最後に巻末4コマで載っていた話で3年桃の一番下がクソ不味い理由ですが、養分は茎や幹に近い部分の果実から貯蔵されていくため、末端のほうの果実にはあまり貯蔵分がこず、結果味が落ちるというわけです。これはなにも夕凪の世界の巨大な果実に限ったわけではなく、実際に房でできる果実の場合、上にある(茎や幹に近い)果実のほうが、よりよい味をしています。 |